ハーフサイズカメラの「OlympusペンS」は、私が最初に使用した35mmカメラだった。1960年頃購入し、翌61年に「関彗星」の発見があった。1962年に「関・ラインズ彗星」の発見が続いたが、その頃はフィルムの感度が低く、彗星を簡単に撮影するわけにはいかなかった。

 彗星発見前の1961年9月には修行を兼ねて「三嶺」に登った。その時、このカメラは行動を共にして、美しい山岳の多くの写真を撮った。山頂からは北に瀬戸内海を、南に大平洋の髣髴たるを眺めた。そして夕空に蜃気楼の如く輝く夕焼け雲を撮った。そして、天体観測に心機一転した時、私の手の中にあった。

 1965年9月、「池谷・関彗星」を発見し、彗星が太陽の火の中を潜って暁の空に奇跡的な姿を現した時、ペンカメラのみ、リュックの中にあった。到底現れる事はない、と思って、撮影の準備をしていなかったのだ。午前5時。東天に輝く健在だった彗星の姿を、30秒の静止撮影で捉えた。正に千年に一度のチャンスであった。

 ペンカメラはそれから半世紀以上も私と共にあった。何度か専門家によって修理されたが、今なお現役で活躍している。オリンパス Dズイコーの30mm/2.8レンズは特別に尖鋭な描写力と神秘的な美しい画質を備えている。数多いレンズの中で、これほど気に入ったレンズはほかにない。

(写真は1965年10月28日午前5時10分。摂氏100万度のコロナの中を潜って優美な姿を見せた”イケヤ・セキ彗星 ‟Olympus pen 30mm F2.8 トライXフイルム。高知市正蓮寺高原からで、遠くに南国市の灯が見える)
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