1961年10月11日午前5時。薄明の押し寄せてくる夜明け前の東天しし座の一角に、彗星らしい光芒を発見した。ここには星団や星雲はないはずだ。1950年以来の長い観測の経験がそれを証明していた。しからば既知の彗星であろうか?

 期待と不安の渦巻く中、私はその怪しい天体に位置を観測して、東京天文台に打電した。それは獅子座のベーター星のそばで、8等級の朦朧とした天体であった。もしかして同時発見者がいるかもしれない。そのような不安と期待を抱えながら、発見した望遠鏡のそばで記念写真を撮った。

 望遠鏡は、日曜大工して作った木の筒に88mmのレンズが入っていた。倍率は僅かに15倍。しかもレンズは素人が手で磨いたものだ。天体発見としては恐らく世界最小の粗末な望遠鏡に違いない。もしこれで発見した彗星が事実なら、驚きで世界がひっくり返るだろう。対物レンズは手磨きなら、接眼鏡はムシメガネ、カンナで削った木の板を接着剤でくっつけた。世界に大望遠鏡のひしめく中で、こんなおんぼろ望遠鏡で、世界最初の発見をしようというのだ。天の一角で神がわらっている。

 しかしその事実を雄弁に物語るように、この記念すべき望遠鏡は、高知市のみらい科学館”に展示されている。アマチュアの彗星発見は望遠鏡の大小ではない、努力である。そのことを、望遠鏡は今もこれからの天文少年たちに、語りかけているのである。その後、この望遠鏡は1962年の”セキ・ラインズ彗星”を経て、あの”池谷・関彗星”の発見につながったのである。

 毎年、秋が深くなるころには、あの時の発見の感激を思い出す。

名称未設定

にほんブログ村 科学ブログ 天文学・天体観測・宇宙科学へ
にほんブログ村