タットル・ジャコビニ・クレサク彗星は1858年にアメリカのケンブリッジで初めて発見された周期5年半の彗星ですが、1973年の6月に近日点に接近中、突然大爆発を起こして肉眼で見えるようになりました。その頃の予報が13-14等でしたから、いかに増光が大規模だったかがわかります。

この彗星を1951年に再発見したチェコのクレ
サク博士らは、この爆発によって彗星はエネルギーの大半を失ったので、次の1978年には現れないだろう、との悲観的な論文を発表しました。
事実イギリスのBAAハンドブ
ックに発表された予報は、それを意識してかマースデン氏が19等より暗い核光度の予報を発表したのです。

しかし異変がおこりました。芸西村に出来たばかりの小屋で40cmの反射望遠鏡を
操って、この彗星の光跡を追っかけている男が居ました。男は明け方の彗星の予報位置に鏡筒を向けました。そして愕然としました。視野の真ん中には明けの明星の金星が居座り煌々と輝いているのです。これでは19等の彗星は見えません。男は撮影をあきらめようとしましたが、念のために一枚の写真を撮影しました。金星のまばゆいばかりの光輝に邪魔され写るはずのものでもありません。この馬鹿な男こそ小屋の主の私だったのです。

写真には激しい金星のゴーストらしい光が写っていました。その翌日も撮影しました。

しかし、このゴーストこそ実は本物のタットル・ジャコビニ・クレサク彗星の光芒だったのです。
世界中の学者が諦めていたこの彗星を芸西が確認したのです。
このことから彗星というものは、大規模なアウトバーストを起こしても完全に消え去るものではないという力強い例となりました。そしていま、従来の光度式に沿った光度変化をみせながら、まるで何事もなかったかの様に、我々の頭上に明るく大きな姿として輝いています。

(写真は去る2017年4月24日、芸西の70cmで撮影した同彗星の雄姿です。)

DSC_9164