”会い得たる愛(いと)しき星よ虫すだく”

これは芸西天文台でハレー彗星の観測会に参加した或る女性の詠んだ句です。

五藤光学が製作した60㎝反射望遠鏡は1980年に現地に搬入され、まだ組み立て作業中に「ロングモア周期彗星」の初めての回帰を検出するという、幸先の良いスタートを切りました。
そして4年後の1984年9月には折から接近中のハレー
彗星に向けられたのです。

その夜は天文台周辺の草むらで、盛んに秋の虫が合奏をしていました。
すずむし、
まつむし、くつわむし。私はこうした虫の音を聞きながらレンズの中の一つ星を一心に見つめて撮影のガイドを行っていました。ハレー彗星の目に見えない光跡を追って60cmで撮影していたのです。
発見を期待する五藤氏の顔が何度もうかんできました。

こうして35分間のガイド撮影によって、謎の光芒が見えて来ました。これぞ、
まだ地球から遠い20等級のハレー彗星の光でした。こうして日本最初発見の狼煙は北ではなく、南であがったのです。秋の虫の音と共に現れたハレー彗星は1986年の近日点に向ってどんどんと明るく大きくなって行きました。
「関さん、ありがとう、望遠鏡を贈った甲斐がありました」この頃、病の床にあった五藤さんが送ってきた最後のメッセージでした。
写真は1986年4月、60cm反射鏡で撮影した堂々のハレー彗星です。

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