ベネット彗星から5年、突然ウエスト彗星(1975V1−A)が、暁の空に出現した。最初は朝焼けの空に低く靡いていたが、その後次第に北上し、尾は東天に垂直に立ち昇った。このころは5年ごとに大彗星が現れて我々を驚かせた。

 そのころ高知市の中心街に「村岡カメラ店」があって、高知大学の天文部を中心に天文ファンが集まっていた。店の村岡健治君は大の天文好きで、優れた軌道計算者でもあった。ある日私が店に行ったとき一人の中学生がいて、店で出来上がったばかりのウエスト彗星の写真をくれた。何でも早朝、高知空港のあたりまで自転車で出かけて、写真を撮ったという事であった。

 この門田氏が、のちに彗星の観測で大活躍する門田健一(星ナビ)さんである。ウエスト彗星は1975年の3月に、完成したばかりの芸西天文台で撮影したが、見事な3本の尾を見せていた。東の森が火事ではないか?と思うほど明るかった。

 我が国の彗星研究の大家、神田茂氏の著作に「彗星」という大著があった。古代から現われた大彗星についての紹介があり、その中に1743年の同じ3月に暁の空に出現した「クリンケン ベルグ彗星」の見事なスケッチがあった。スイスの山奥の湖に影を映した彗星で、奇怪な6本の尾を噴き上げていた。彗星の上にはわし座も描かれ、湖の遠くには白い雪山も輝いていた、誠に実感に溢れた絵画で、作者も鬼気迫る思いで描いた事であろう、と思った。

 1960年70年代は彗星が良く現れた年で、1986年には大ハレー彗星も回帰した。その後ヘールボップ大彗星も出現したが、近年は少なく寂しい気がする。ホウキボシは大の気まぐれ者。そのうちにきっと我々をびっくりさせるほどの彗星が突然現れることと思う。

(写真は1975年3月1日、午前5時。芸西天文台で撮ったウエスト彗星)

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