その頃私の観測所は、自宅から道路を隔てた北の畑の中にあった。元、製紙工場のあった廃屋の跡で、高さ3mほどの用水タンクを改造したものだった。1953年頃だった。朝の6時、観測が終了してようやく明け染めてきた東の星空を眺めて、独り浩然の気を養っていた。朝方の、ことのほか美麗な星空が、薄明の襲来と共に消えていくのが惜しかった。

 その時突然、近くでクリスマスの讃美歌の合唱が始まった。観測所から70m位の、近くの洋館に教会があった。私はしばし茫然として、賛美歌に聞き入りながら、明けの星空を見つめていた。探してもさがしても星の見つからない時期だった。誰に知られることもなく、青春を密かに新彗星の捜索に集中していた。友人もなく恋もなく、ただひたすらに「未知の星」を追うのが日課であり理想でもあった。

 そんなある日、その様子を知ったカメラマンが訪ねてきて写真を撮った。「寺田正さん」という大正年代から活躍している有名な写真家であった。「一筋に生きる」、、、、という事でお互いに話が合い私は人生を語った。星ばかりを見つめ最も純粋に生きた頃の私の瞳である。
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