親子二つ並んで飛ぶ”ビーラ”彗星。この様な奇怪な光景が果たしてあったろうか?1826年に、オーストラリアのビーラが発見した彗星であるが、その周期は7年弱。1832年には再び現れて、地球に0.002天文単位(約30万キロ)と大接近して世間を驚かせた。その後何回か回帰したはずであるが、太陽との位置関係が悪く再発見されないことが多かった。

 1846年になって異変が生じた。ケンブリッジで、この彗星が大小二つに分かれている姿が観測された。これら二つの親子彗星は、しばらく並行して飛び続け、二つは虹の様な光の帯でつながっていたという。次の1852年には「今回も二つだろうか?」と非常な興味を持って迎えられたが、二つの彗星は、やや遠ざかりながらも、依然として光の帯でつながっていたという。

 ところが異変が起こった。その7年後の回帰するはずの年には現れず、(どうしたことか?)と、多くの人が疑問に思っていた。1872年の11月になってビーラ彗星がやって来ると思われる方向から突然の流星の雨が降った。数万、数十万の流星が降り注ぎ、ビーラ彗星はこうして地球と接触することによってその生涯を閉じた、と目されたのである。

 しかし、今もビーラ彗星に伴う流星の残党は観測されている。昨2019年の11月下旬だった。私は天頂に輝くアンドロメダ座の方角をじっと見つめていた。一個の暗い流星が南に向かって飛んだ。それは悲しいビーラ彗星の最期を惜しむかのように寂しく光って消えたのである。

(挿絵は1846年、当時の人が描いた親子二つに分裂したビーラ彗星のイメージ)
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