1972年、ここ芸西村に観測所を築いたときには、あたりは暗かった。天文台にやって来て、暮れなずむ夕空を見ていると、昔の情景を思い出した。遥か西の手結山が紅い夕焼けに染んで、やがて無数の星たちが燦然と輝き始める。ここで大ハレー彗星を拝んでから34年。

 新型コロナウイルスの関係で、下の運動公園には人影が無い。農家の灯も少なく、完全に暮れると、早春には神秘的な黄道光の光芒がピラミッドのように立ち昇る。そして真夜中には天頂付近にはナゾの対日照が輝く。いずれも太陽系内に散在する無数の小惑星群のいたずらだが、見える時期が限られているのは小惑星の分布に大きなムラがある為であろう。秋になると反対に明け方の空に黄道光が輝く。

 今夜は一つの重要な目標があった。それはC/2019 Y4(Atlas)という、新彗星である。ハワイのマウナロアにある「小惑星地球衝突最終警報システム」によって、発見、観測された新彗星で計算によると、今年の5月31日(UT)に近日点を通過し、太陽に、0.25天文単位まで接近する(約37万キロ)。従って相当に明るくなること必至である。その頃、普通の計算上では1等星であるが、中にはマイナス7等になるとの計算式もある。これはいま夕空に輝いている宵の明星(金星でマイナス4等)よりはるかに明るく、半月の明るさに匹敵する。

 3月11日の芸西の観測では10等星である。どうやら順調に増光している。しかし、彗星は気まぐれ者でわからない。もし、マイナス等級になって、長い尾を曳くようになれば、久々の大彗星の登場に世界は騒ぐだろう。この6月13日に高知市で開催される「彗星会議」でも大きな話題になって会場を席巻する事であろう。彗星は今は幸福を運んでくる使者かもしれない。

 「アトラス彗星よ! 大彗星になって、今年の世界の暗いイメージをふっ飛ばしてくれ給へ」と叫ぶ。それは私の敬虔な祈りである。

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