ここは高知市上町の築屋敷である。見事な石垣の塀が400米ほど続く。新型コロナウイルスの関係で人通りは少なく、昔を思い起こす。
 坂本龍馬は少年の頃、この道を歩いて剣道の道場に通っていたという。ある時代劇の映画のロケに使われたことがある石垣の道である。
 
 私の祖父は大正年代に、この道を好んで歩いた。当時は熟年の男性の間で尺八が流行し、深夜に良くその音色を聴いた。祖父も、日課のように自分の吹く尺八の音色に陶酔し、瞑想しながらゆっくりと歩いた。

 ある晩春の夜、尺八を吹きながら築屋敷の堤防の上を歩いていると、黒い覆面をした悪漢が突然後ろから襲い掛かり、日本刀で袈裟懸けに斬りつけてきた。重傷を負った祖父は前に倒れ、堤防の坂道を這うように降りたという。刺客は風の如く逃げた。試し切り?幸い一命はとりとめた。

 桜は、何事もなかったかのように今年も見事に咲き誇った。折からの微風に一輪二輪の花びらが、私の体に降りかかってきた。平穏な春の午後だった。

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