私が中学2年生だった1945年の夏は、学校にはろくに通わず、毎日が過酷な労働だった。高知県に駐留していた関東軍と共同で本土防衛のための土木工事に従事していた。
 大平洋戦も大詰めになって、高知市の様な地方都市も度々B-29の爆撃を受けた。作業場から20kmほど離れた高知市で爆撃による煙が上がっているのを見ていたが、なんとそれは我が家(製紙工場)が焼夷弾による爆撃を受けたことによる煙だった。夕刻、作業が終わって家に帰るとその時の様子を親から聞かされたが、幸い日ごろの防火訓練のおかげで大事に至らず消し止めたという。
 やがて運命の7月4日が訪れた。家族全員が避難した中庭の防空壕で過ごしていたが、新鮮な外の空気が恋しくて階段を上がって地上に立った。完全な灯火管制が敷かれて、あたりは真っ暗だった。死んだような静寂だった。
 この時頭上に異常に光る物体があった。敵機が落とした照明弾かと思って緊張が走った。しかしその光は動かなかった。地上を照らす星だったのである。
 地上は戦火に巻き込まれている。しかし天には永遠の平和があるように思われた。その優しい光は職女星であったに違いない。(何と美しい優しい光だろう)ただ一人恍惚として見惚れている間に、遠くから轟々という爆音が近づいてきた。
 こうして、星とのロマンは忽ちにして地獄絵と化して行ったのである。

(写真は7月上旬の琴座。上の端の輝星が職女星ヴェガ)
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