突然、夕焼けが輝いた。長い梅雨の合間に見る夕焼けは殊のほか美しい。最もこれで晴れるというわけではなく、長い梅雨の中での一瞬の輝きである。
 夕焼で思い出すのは1961年9月、高知県と徳島県の県境に立つ高山(三嶺)に登った時の事。第二室戸台風の来襲による暗黒の中に一瞬、この世のものとは思われない輝かしい夕焼けを遥か西の空に見たことだ。彗星発見への闘志を再び燃やすきっかけになった出来事であった。

 宇宙の本当の美しさを観賞するならば、低倍率広視野による彗星探しが最も適している。有名天体は大体星図に出ているが、中には星図にない見事な星団や星雲に遭遇することがある。そこには輝かしい星の配列がある。そして彗星捜索の苦労を忘れ、恍惚としてその神秘に酔うのである。生きていることの幸せを感ずるのである。たとえ肝心の彗星が発見出来なくとも、コメットハンターは幸せだとつくづく思う。

 今年は彗星捜索家、本田実氏の没後30年だという。本田氏ほど日本の彗星界に影響を与えた人はいない。私が高校生の頃、書いた手紙を真面目に取り上げてくださり発見者へと導いてくださった恩人でもある。思い出は絶えない。
 ふと気が付くと、屋上からの赤い夕焼けは、今消えんとして、なお輝いているのであった。

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