火玉は”人魂”とも呼ぶ。要するに死後の人間の燐が空中で発光する現象である。これには霊が潜んでいると言う!?
 明治の昔にはこの「人魂」はよく見られたらしい。祖父、丑郎(うしろう)は子供の頃土佐市高岡町で火玉と遭遇した。自分の頭の上をかすめて通り、向こうの松の木の梢にかかり「ぱちん」と消えたという。
 また父の故郷の高知市朝倉米田では、農夫が二人あぜ道を前と後ろと10mくらい離れて歩いていた。その中間に青い火の玉がヌウーッと立ち昇った。後ろの老婆は驚いてその場で気を失ったが、前を歩いていた男は知らずにそのまま町まで行ったという。これは昭和20年頃、私たちが大戦下に、疎開していた頃(米田の山本家)での滑稽な出来ごとであった。

 しかし"人魂”は素人の何かの見誤りではないか?との向きもあるが、地震の時の発光現象を専門に調査しているある学者が、地震の起こった後で、地上を低くふらふらと飛ぶスイカ大の火玉を見た、と話題になったことがあった。どうやら火玉はただの怪談ではないらしい。人魂は、じめじめとした今のような、蒸し暑い夏の夜を好んで出没するのである。

 私は多くの時間、天体観測で夜空を見ているが、残念ながら火玉は流星の”火球”以外に一回も見たことが無い。20年以上も昔になるが、芸西天文台で仕事をしていると未知の人から電話がかかってきた。岡村さんという地元の方であるが、息せき切って「天文台の山の上に火玉が出て光っている」という。
 私にはその正体がわかっていた。心の中でおかしさが込み上げてきた。それはホウキ星が一つ、東の空に出て明るく輝いていたのである。その星の名は”ヘールボップ彗星”。あたかも火玉の如く青い尾を曳いて、東の林の中に横たわっていたのである。
 さて、次回は「丑郎」の見た、更に奇怪な現象である。

火玉


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