クロムメリン彗星を発見した時、高知市の空が異常に明るかったことを報告すると、山本博士は「滋賀県でも夜空が異常に明るかった 。あれはオーロラだよ」と言って私を驚かした。
 「えっ、オーロラが日本でも見えるのですか??」と質問すると博士は、「君も知っての通リ、今は11年に一度の太陽活動の最も盛んなときだ。日本の様な中緯度でも結構見えることがあるよ」と言って私を更に驚かせた。
 思うにあれは極光の疑似現象ではなかったかと思う。太陽からの粒子が盛んなときには上空の電離層付近の大気ががよく輝いて、いわゆる夜光現象が著しくなる。それは恐らくオーロラの一歩手前で、明治から大正にかけての古い気象の記録によると、太陽活動の激しい時「天に紅気あり」という記録が北の各地に残されているが、それは幽かなオーロラの現象だそうである。

 この太陽活動は彗星にも影響を与えた。1956年の上旬に発見したクロムメリンは、約1ヶ月後の11月初め、近日点を通過して約2等級アップした。この現象について山本博士は「盛んな太陽活動を象徴する出来事である」と述べた(山本速報)。

 山本博士は私の報告をチャンスとして、日本でオーロラの見える可能性について語った。当時の民放で「オーロラの見方」について何回か解説し、ご自身、自宅の天文台で幽かに活動するオーロラを見た経験を話していた。しかしオーロラが本州で一般化することはなかった。夜空が都会から離れて、よほど暗くない限り、この様な微妙な現象には気づきにくいのだ。私のやっている芸西天文台では、対日照の幽かな光芒までアリアリと見える最高の条件だったが、その後、疑似オーロラを見た経験は無かった。
 
 さて、クロムメリン彗星を再発見した時、佐川町の山崎氏は、直ちに祝電を打って下さった。山崎さんがカリフォルニア大学に留学中にハレー彗星がやってきた。帰国後、岩手県の水沢の天文台でクロムメリン彗星を発見したが、引退後も故郷の佐川町で密かに自分の彗星の帰って来る日を待って、夜ごと望遠鏡を操作していたそうである。私も何回か山崎式望遠鏡を覗かせてもらったが、ご自身研磨したという20cm鏡のピントはあまり良好ではなかった。アイピースはラムスデン式の僅か30度の視角で、これで彗星を捉えたのは奇跡に近いと実感した。氏の大変な努力が忍ばれた。

(1956年11月上旬、カラス座付近を南下するクロムメリン彗星。倉敷天文台提供)

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