今から遠く1950年頃の出来事である。
晩秋の暮れなずむ西空に、夏の有名なさそり座が沈みかかっていた。すると紅いアンターレスのそばにこれも1等星くらいの紅い星が並んでいた。私は咄嗟に新星ではないか、と思った。なぜなら、その数日前にはそんな明るい星は無かったからである。
天文を始めたばかりの私は「草場星図」で、位置を確かめると、「サソリザニシンセイミユ」の電報を打った。
すると間もなく東京天文台から返電が来た。「イチトコウドヲシラセヨ、カセイナラズヤ」と。
私は「ハッ」とした。惑星の位置まで確かめていなかったからである。
火星は地球のすぐ外を公転している惑星であるから、地球との位置関係で逆行したりとどまったり(留)、また巡行したりする。私が西の地平線上に低く見たときにはそれまで地平線下にあって見えなかったものが、巡行を始めて地平線上に姿を現わしたときであったのだ。衝撃が走った。直ちに「ソハカセイナリ、ワビル」との返電をかえした。
考えて見るとなんでもないポカミスである。しかし、こんな初歩的なミスがかなりのベテランにも度々起こったのである。当時は戦後間もないころで天象に関して情報不足であった。
いま火星は衝を過ぎて、22時ごろ南中する。見やすい位置である。新星発見のミスは茫呼としてかすんだが、火星の不気味な赤い色をじっと眺めていると宇宙の妖怪に見えてくる。
(写真は芸西の70cm反射望遠鏡で撮影した火星の光跡である。)


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晩秋の暮れなずむ西空に、夏の有名なさそり座が沈みかかっていた。すると紅いアンターレスのそばにこれも1等星くらいの紅い星が並んでいた。私は咄嗟に新星ではないか、と思った。なぜなら、その数日前にはそんな明るい星は無かったからである。
天文を始めたばかりの私は「草場星図」で、位置を確かめると、「サソリザニシンセイミユ」の電報を打った。
すると間もなく東京天文台から返電が来た。「イチトコウドヲシラセヨ、カセイナラズヤ」と。
私は「ハッ」とした。惑星の位置まで確かめていなかったからである。
火星は地球のすぐ外を公転している惑星であるから、地球との位置関係で逆行したりとどまったり(留)、また巡行したりする。私が西の地平線上に低く見たときにはそれまで地平線下にあって見えなかったものが、巡行を始めて地平線上に姿を現わしたときであったのだ。衝撃が走った。直ちに「ソハカセイナリ、ワビル」との返電をかえした。
考えて見るとなんでもないポカミスである。しかし、こんな初歩的なミスがかなりのベテランにも度々起こったのである。当時は戦後間もないころで天象に関して情報不足であった。
いま火星は衝を過ぎて、22時ごろ南中する。見やすい位置である。新星発見のミスは茫呼としてかすんだが、火星の不気味な赤い色をじっと眺めていると宇宙の妖怪に見えてくる。
(写真は芸西の70cm反射望遠鏡で撮影した火星の光跡である。)

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