イケヤ・セキ彗星は謎の多い天体である。
「太陽を掠める彗星群」の一員であるが、太陽系の中で、いつ生まれたのか判然としない。恐らく何千年か何万年かの昔、太陽系を遠くから包む「オルトの雲」あたりから発生して、太陽に接近してきたものであろう。その近日点距離が0.01天文単位より小さいので、太陽コロナの中を通過する運命にある。そして太陽の表面をこするようにして出て行く。その間、太陽コロナの摂氏100万度の光熱を浴びるのである。
 
 彗星は多く氷でできているので、小さいものなら瞬時蒸発してしまう。小さな彗星たちはいわゆる”飛んで火にいる夏の虫”で、地上から見えないような小さな彗星が、常に太陽表面で爆発消滅しているのである。その彗星の細長い軌道上には、まるで”数珠つなぎ”のように、無数の彗星たちが取り巻いて公転しているのであろう。それらは,太古の昔、一つの大きな彗星が、コロナの中で分裂して出来たものと想像される。そして、それらがまた太陽に大接近して分裂を繰り返すのである。1882年の「セプテンバー コメット」の接近の時、アメリカのバーナード博士が、その様子を目撃した。

 1965年の「イケヤ・セキ彗星」は、太陽を掠めるグループのものでも、特別に大きかったので生き残ったのか? 1882年9月に現れた同群の「セプテンバー コメット」は大西洋を航行中の汽船の上で、太陽のすぐそばに発見されたが、これも近日点を通過して、特別に大きい彗星として観測された。また1842年の”南の大彗星”は、尾の長さが100度にも達してヨーロッパの人々を驚かせたが、これなんかも近日点距離の非常に小さな、同グループの彗星であった。

 さて1965年のイケヤ・セキ彗星は、発見から約一か月後の10月21日に太陽に最も接近して、白昼青空をバックに観測された。10月の下旬から、朝方の暗い空に浮かぶようになった。そして人工衛星とランデブーした。思えば、この彗星が最初に現れ始めた頃には地上には文明も何もない恐竜の世界だったかもしれぬ。約1,000年の周期で公転しているうちに人類による文化が発祥し、遂にはそのシンボルたる人工衛星と遭遇した。彗星は遠い昔から地球を見つめて来たのだ。
 いまから1,000年後にまた帰ってきた時にはどんな地球の姿を見るのであろうか?
 もしか
して、人類は他の天体に移住し、残されたのは戦争や公害で荒廃した地球の姿であろうか。それとも、文明はその極に達し、多くの宇宙人の往来する夢の楽園であろうか?

 (写真は1965年11月3日、「イケヤ・セキ彗星」とランデブーして今や尾の中をくぐらんとする人工衛星の光跡である。105mm望遠レンズにて撮影)

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