四国も最南端、足摺岬は日本列島の中で、太平洋黒潮の最も早く到達する所で、さきにいろんな漂着物をめぐってのロマンを紹介したが、今回はそれとはまったく違った悍ましい話である。
 ずいぶん昔であるが、足摺岬が”飛び込み自殺”の名所として、ある映画に登場したことがあった。海抜70mの灯台の下の岩場には、底知れぬ深い洞窟があって、飛んだ人はその中に吸い込まれて消えるという。投身自殺者の心理として、無残な姿を人に見せたくない。そんなことで、ここを訪れる人が年々多くなって、灯台のある断崖には「ちょっとまて」の看板が建つ様になった。

 もうかれこれ20年になろうか。この断崖の近くに住んでいるという農家の方が、上町の私
の家を訪ねてきた。その人の話によると、あまり公にならないが、毎年、何人かの人が遠くから訪ねて来て身を投げるという。しかし、投身しても下の海までは届かず、多くの人が途中の岩場や木に引っかかってしまう。そうした不幸な人達を助ける仕事をボランティアでやっているという珍しくも感心な人たちであった。

 彼らはある日、団体で高知市上町の「竜馬の生まれた町記念館」を見学にやってきた。そのついでに、私の家が近い事を知って、連絡してきたものであった。何故に私が必要だったのか?その理由は実に奇抜にして、不思議な事件であった。
 ある日の朝、灯台の近くに住む若い漁夫が、灯台のそばのベンチに、一冊の本が置かれているのを見つけた。そしてベンチの下には一足の女物の靴が脱いであった。(これは、ただならぬ)と思って、急いで救助活動をやっているボランティアの家に飛び込んできたという。近所のひと数人が探したが、断崖から誰かが飛んだ形跡はなかった。ミステリーである。置き忘れた本は、一冊の星の本で、作者は「関つとむ」となっていたという。

 私は、その話を聞いて愕然とした。(この拙著が、一人の人間を死に追い込んだだろうか?)内容は一人の青年が新しい星を発見するまでの苦労談で、確かに人生読本的な要素はあったが、人を死に追い込むような内容ではない。出版と共に東京のA新聞に書評が載って、多くの読者を得た。社会のあらゆる層からの手紙がとどいた。人生に絶望して呻吟し、新しい天地に生き甲斐を求める若い人たちからの手紙が多かった。一方、中年のある女性から『私がもしこれからの人生を失敗するようなことがあったら、この本をもう一回読み返してみたい』と言って私を感激さした。

 こうして、その人達の前途に、あたらしいロマンが築かれて行ったのである。

(写真は足摺岬灯台の下に口を開けた、前人未踏の洞窟)
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