チェコ スロバキアの天文台から、コペンハーゲンの天文中央局経由で世界に発信された天文電報は、スカルナテ・プレソ天文台で、A.ムルコスが発見した新彗星を伝えるものであった。数字ばかりの暗号で発信された電報を解読した私は、愕然とした。それは、先に広瀬〜長谷川のバトンタッチで計算された、問題のペライン彗星の位置に極めて近いものであった。
外国ではまだ誰も、それが永い間行方をくらましていたペライン彗星だとは気が付いていないらしかった。しかし彗星の光度は9等星と予報よりざっと100倍も明るい。そこで考えがひらめいた。
この彗星は本来が大変暗い彗星ではないだろうか?普段は見えないが、何か太陽活動による太陽からの粒子の刺激を受けた時、突然爆発して、明るくなり、発見されるのでは無いだろうか?と。ムルコス氏発見の位置を詳しく調べると、それは秋の明け方の空に輝いているカニ座の中であった。「かに座」と知ってまた驚いた。私はムルコス発見の二日前に、15cm鏡の捜索の視野が、このかに座を通っていたのである。その時見た、奇妙な天体のイメージが浮かんできた。
それは極めて判然としない姿であった。10等星以下の暗い微光星がまるで小さな砂の如く散らばっていた。微光星全体がボーッとした、淡い光芒につつまれていた。それは星図にも私の長い観測の経験にもない天体であった。薄明も迫ってきたので、私は視野を急いだ。そして、何事も異常が無かったように、午前5時で観測を終了した。もし、それが問題のペライン彗星でなかったとするならば、本物の天体は、ムルコス発見の二日前には、増光をしていなかったことになる。突発増光はその後の二日間に絞られる。いずれにしても私の観測は貴重なものとなった。二日前に天体が存在しなかった事だけでも、学術上の資料となったのである。
ムルコス彗星が、長い間行方不明になっていたペライン彗星と判明した時、長谷川氏は自分の計算した軌道をさらに観測に合わせて改良し、予報を発表した。もし彼の予報が最初から正しければ、世界のどこかでもっと早くペライン彗星として検出されていたと思う。日本の天文界にとって手柄をみすみす失った、惜しい事件であった。
しかしOAAの山本博士は、彼の努力を買って、”努力賞”ともいえる表彰状を与えた。以上の経過から、ペライン彗星は、正式には18D/Perrine-Mrkosと呼ばれるようになったが、現在、またもや半世紀にわたって、行方をくらましている。再び暗黒の輝かぬ彗星となって、秘かにこの広い宇宙のどこかを彷徨しているであろう。
(私の軌道計算の机上。パソコンのまだない時代であるから、B4の用紙一面に数字を書いて対数計算していく。位置予報では数枚が、軌道決定では数十枚の量となり、数日の計算を要した)


にほんブログ村
外国ではまだ誰も、それが永い間行方をくらましていたペライン彗星だとは気が付いていないらしかった。しかし彗星の光度は9等星と予報よりざっと100倍も明るい。そこで考えがひらめいた。
この彗星は本来が大変暗い彗星ではないだろうか?普段は見えないが、何か太陽活動による太陽からの粒子の刺激を受けた時、突然爆発して、明るくなり、発見されるのでは無いだろうか?と。ムルコス氏発見の位置を詳しく調べると、それは秋の明け方の空に輝いているカニ座の中であった。「かに座」と知ってまた驚いた。私はムルコス発見の二日前に、15cm鏡の捜索の視野が、このかに座を通っていたのである。その時見た、奇妙な天体のイメージが浮かんできた。
それは極めて判然としない姿であった。10等星以下の暗い微光星がまるで小さな砂の如く散らばっていた。微光星全体がボーッとした、淡い光芒につつまれていた。それは星図にも私の長い観測の経験にもない天体であった。薄明も迫ってきたので、私は視野を急いだ。そして、何事も異常が無かったように、午前5時で観測を終了した。もし、それが問題のペライン彗星でなかったとするならば、本物の天体は、ムルコス発見の二日前には、増光をしていなかったことになる。突発増光はその後の二日間に絞られる。いずれにしても私の観測は貴重なものとなった。二日前に天体が存在しなかった事だけでも、学術上の資料となったのである。
ムルコス彗星が、長い間行方不明になっていたペライン彗星と判明した時、長谷川氏は自分の計算した軌道をさらに観測に合わせて改良し、予報を発表した。もし彼の予報が最初から正しければ、世界のどこかでもっと早くペライン彗星として検出されていたと思う。日本の天文界にとって手柄をみすみす失った、惜しい事件であった。
しかしOAAの山本博士は、彼の努力を買って、”努力賞”ともいえる表彰状を与えた。以上の経過から、ペライン彗星は、正式には18D/Perrine-Mrkosと呼ばれるようになったが、現在、またもや半世紀にわたって、行方をくらましている。再び暗黒の輝かぬ彗星となって、秘かにこの広い宇宙のどこかを彷徨しているであろう。
(私の軌道計算の机上。パソコンのまだない時代であるから、B4の用紙一面に数字を書いて対数計算していく。位置予報では数枚が、軌道決定では数十枚の量となり、数日の計算を要した)


にほんブログ村
コメント
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。