大正から昭和にかけて活躍した作曲家「古賀正男」の歌謡曲に”青春日記”という哀歌があった。 
 ♪・・・紫のペンのインクも滲みがち・・・♯ 
という一節があるが、昔の人はすべて手紙で自分の感情を相手に伝えた。今流行の簡素なメールでは真剣な自分の心なんか相手に伝わらない。一本の手紙がその人間の明暗を分けることがある。

 1950年、私は本田実さんの彗星発見に憧れて手紙を書いた。学術に限らずスポーツの世界でも、昔は少年たちが有名な選手に手紙を送ったが、まずは返事が来ないのが常識である。もしそんな偉い人から個人的な返信が来たら、本人は大いに感激するだろう。それだけではない、大いに奮発して自分の道を邁進するだろう。そして成功を収めるに違いない。
 私が天文家としての本田さんに送った手紙は、彗星の捜索においての疑問を解明することであった。高校を出たばかりの下手な文字と拙文であったが、便箋3枚に懸命に丁寧に、そして情熱をかけて書いた。その誠意が通じたのか、忙しいはずの本田さんから1週間ぶりに返信が届いた。半ば諦めていたことが現実となった、私は本田さんからの一字一句を便箋に穴が開くほどに見つめて読んだ。そうして勇躍して、自信にあふれて観測に臨んだ。
 これがもし今の時代だったら、パソコンによるメールや、スマートフォンで大先生の心動かしただろうか? と思う。案外私は平凡な天文ファンとして、終わっていたかもしれない。手紙の重みはすごい。本田さんに手紙を書いてから11年。コメットシーカーを構える私の前に、遂に希望の星が現れたのである。

(自宅の屋上で9cm、15xのコメットシーカーを構える筆者)
名称未設定


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