そのころ(1980)年、私は芸西に完成したばかりの私設天文台の40cm反射望遠鏡(小島鏡)を使って、眼視的に彗星の捜索をおこなっていた。コメットシーカーにしてはやや大口径であるが、微細な彗星や星雲はよく見えた。本田さんは彗星の捜索には15cm以上はいらないと言ったが、中口径にはそれなりの魅力があった。狭い天空を奥深く捜索するのである。そうすることによって、多くのハンターたちとの競争はさけられた。外国ではイギリスのデニングやアフリカのライト氏。それにアメリカのペルチャー氏あたりは、比較的太陽から、遠い空を捜索して、成功している。
 1980年の12月の事であった。私は例によって40cmでパトロールしていると、普段、見慣れたカニ星雲のM1が入ってきた。明るさは約9等で、光度には変わったことは無かったが、奇妙な物がくっ付いているのである。おかしい?と思って自分の眼を疑ったが、その変わった形には変化が無い。時刻の経過と共に両者はわずかに離れていく。ここで、それが最近再発見された周期38年の「ステファン・オテルマ彗星38P」であることが判明した。

 ある程度大きい望遠鏡で捜索していると、星図には出ていない美しい天体に遭遇する。
目の覚めるような散開星団に球状星団。そして濛々たる星雲のすがたである。例え、目的の彗星は発見出来なくても、こうした大宇宙の神秘とその美しさに触れ瞠目したものである。
 しかし、最近はプロの著しい進出によって新彗星に遭遇するチャンスが少なくなり、こうしたコメットハンターの楽しみがなくなったのは残念である。最も彗星君には出会えなくとも、それに勝る素晴らしい星団星雲と出会えた。ああそんな失望の中にも、喜びを噛みしめた日が過去何十年続いたことか。ああ彗星の捜索が青春のすべてであった。

(1980年12月5日。40cm反射で15分間の露出。コダック103A-E乾板、D-19現像)

IMG_2662

にほんブログ村 科学ブログ 天文学・天体観測・宇宙科学へ
にほんブログ村