1965年10月21日は朝から見事に晴れた。この日は太陽を掠める彗星群の一つ「池谷・関彗星」が近日点を通過する日だった。それは正午ごろで、その距離は太陽の中心から0.006天文単位。マスコミの発表によると、太陽の表面からわずか3万キロであった。
 朝から雲一つない快晴だった。実はその半日前のAp-共同での報道として、ハワイの観測所によると「イケヤ・セキ彗星」は太陽に接近中にバラバラになって白昼の空に砕け散った、と言う。
 
 私は自宅の観測所で、大勢の報道関係者に見守られながら、特殊なフィルターをかけた天体望遠鏡で、一心に太陽界隈を見ていた。そして撮影したその中の一枚に奇妙な映像が浮かんだ。彗星が太陽に最も接近した12時ごろで、ただまっ白くまばゆいばかりの太陽コロナの中で、彗星がまるで大蛇の如く太陽に巻きつこうとしているのである。これこそ彗星接近中の最も太陽に近い傑作の写真であった。
 長い尾を引いた彗星が太陽に接近すると、太陽風によってガスの尾は反対方向に吹き流される。(タイプⅠの尾)。しかし一層接近すると、ダストの尾は強力な引力が打ち勝って、逆に太陽方向に引っ張られ、大きくカーブした尾となる。(タイプⅡの尾)更に大接近すると、彗星は急速に太陽の表面を回るので、尾は取り残されて太陽に捲きつく形となる(タイプⅢに似た重い尾)。写真は、この奇怪な一瞬の現象を捉えた一枚なのである。

 とにかく明るくてまぶしくて、つまびらかに見えなかったが、太陽接近によって大蛇と化した怒れる彗星が太陽に巻きついたという、前代未聞の恐ろしい現象なのである。かくてながい1日が暮れた。
 「その後彗星はどうなったのか?」翌日の早朝、私たちは非常な興味を持って高知県須崎市の「バンダの森」で、世界で初めての奇怪な現象を望見することになるのである。太陽コロナのなかの100万度の高熱を浴びた「蛇彗星」は健在だったろうか?神々しいばかりの静寂な山の朝焼けの空に意外な光景が展開されていくのである。
「おお! あれを見よ!!」朝日に向かって絶叫した声が、山間に幾重にも木霊となって帰ってきた。


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