「関のお坊ちゃん」と声をかけてきた男は、第2次大戦の末期「関製紙工場」で働いていた「田辺」と言う男であった。工場にある日、時限発火装置が仕掛けられていて騒いだ時、急に姿を消したこの男が、てっきり犯人と思っていたが、事情を聴いてみるとそうではなかった。彼は関家の遠い親戚にあたる男で、出身は高知県の西の幡多郡であった。たまたま松山の温泉地に観光に来ていて私と出会った。彼は「よいお土産が出来ました」と、喜んで大阪に帰った。

 私とギター音楽との出会いは全くの偶然であった。戦時中、中庭の防空壕に入っていて、B-29の爆音が遠くなった時そっと外に出て見ると、明け方の空に一つの青い星が出ていた。星は私たちを平和な世界にいざなうように静かに美しく輝いていた。「宇宙には平和がある」そう思ってなおも眺めていると、どこで誰が弾くのか、ギターの弦の音が響いてきた。それは、爆撃機の通り過ぎた後の一瞬の平和を称えるかの如く静かに鳴り響いた。

 幽遠な空に見る星の光も、優美なギターの音色も、
特殊な状況下であったが故に、私の心にしっかりと残ったのである。それから数年後の平和な時代に、趣味としての星とギターが私の心に根づいたのである。

 星を見ながらギターを奏でる。一見ロマンチックに見えるが双方ともにその道は険しかった。ギターは一時期指導者について習ったが、その後は独学であった。ギターはヴァイオリンと違って和声の楽器であるから理論的な和音の配列に苦心した。ギターそのものが小さなオーケストラである。最終的にはソナタの演奏が目標であった。ある日、NHKの取材班が来た時、星の録音の後で「それではギターを一曲」と言う事になった。外は煌々たる月光であった。私はF.ソル作曲の、ロ短調練習曲「月光」を演奏した。
 後で鹿児島県の天文家、「坂元鉄馬」氏がラジオを聞いていて「静かなアルペジオが胸に響きわたりました」と評してくれた。

(NHKーTVでギター演奏をする筆者)

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