1946年(昭和21年)12月、深夜の浦戸湾に漁に出たものの、何の収穫もなく家路につきました。車の無い時代で、都会からの明かりも貧しく、真っ暗な鏡川沿いの道をガスランプの明かりを頼りに歩きました。

空は曇って星は見えていませんでした。上町の家に帰ったのは午前3時頃だったでしょうか、二階の勉強部屋の机に向かって座ったもののすぐ寝る気になれず、最近友人と作り始めた電池式の短波受信機をいじり始めました。

午前4時前だったでしょうか。突然静寂な室内の空気がピリピリと揺れました。震度1くらいの揺れを感じたのです。「地震だ!」と叫んで家族の者に知らせようと思った次の瞬間、いきなり烈震が襲ってきたのです。畳は水に浮かぶ木の葉のように揺れて歩けず、電燈は消えて真っ暗闇の中に、地獄のような恐怖に襲われました。外の木立はざわざわと音を立てて揺れ、小鳥たちが一斉に飛びたちました。そして空は稲光の如く何回も閃光が走りました。

この烈震は40秒ほど続きました。暗黒の世界の中で、遠くで人の呼ぶ声が聞こえてきました。「おーい、揺れ戻しがくるぞ!」と叫んでいるようでした。しかしその後は小さな余震がひっきりなしに起こるだけで、大きな余震はやって
きませんでした。安政元年の南海大震災からざっと100年。今回の南海大地震についての噂も備えも、全くありませんでした。

私たちは家の中庭に避難しました。氷点下の寒さの中でじっと夜の明けるのを待ちました。一時間以上も佇んで、ようやく明け初めた東の空を見ると、そこに異常に明るい星が一つ光っていました。天文学の知識は無く、それは地震の時、特別に現れた怪しい星だと思いました。半月より明るい星は、幽かな雲を貫いて、夜が明けてもなお光っていました。

(暁の空に異様に輝く明けの明星)
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