キューバ西部に位置するピナール・デル・リオでは、早速、管弦楽団の団長に会いました。そして楽譜を見せると一見して「オッ!これはミシェルの書いたものだ」といいました。そして次の言葉に愕然としました。「サックス奏者のミシェルは良い男だった。しかし5年間に亡くなったよ」と。
 折角はるばると国交のない遠い国にやって来たのに、肝心の本人がいなかったのです。しかし団長の好意で、当時のメンバーを集めて「イケヤ・セキ彗星の曲」を演奏してくれる事になりました。ピナール・デル・リオ最大の音楽堂での演奏会です。これには日本から尋ねて行った、民間の放送局の力もありました。
 演奏は多少の観客を集めて、行なわれました。作曲から30年、ようやくミシェルの名作が日の目を見たのです。そして日本でも放送されました。

 演奏会が終わって、日本から持ってきた「イケヤ・セキ彗星」の拡大写真を、翌日彼の墓地
を訪ねて供えました。
 イケヤ・セキ彗星は、軌道の関係で、南半球の空で最も明るく大きく見えました。同じ南半球でもネパールのカトマンズでは「世界の終りか」という事で、国王まで参加しての厄除け祭を行ったことがNHKのテレビで報じられました。これらの途上国では、空は抜群に良いので、彗星は恐ろしいばかりに輝き、夜空を跳梁する怪物の如く見えたことでしょう。
 こうして「イケヤ・セキ彗星」の発見は私の天文生活の中で最大の出来事となりました。「イケヤ・セキ彗星がまたやってくる!」と書いたら驚くでしょうか?
 この彗星は1,000年近い周期で太陽を回っています。しかしその太陽を取り巻く細長い軌道上には続々と同じグループの彗星が数珠繋ぎとなって回っており、明日にでも現れても決して不思議はありません。このグループのことを私は「クロイツ組」と呼んでいるのです。なんだか怖い話ですが。
 今彗星の捜索をやっているあなたは、いつの日にかこのクロイツ組と遭遇しても決して不思議ではありません。

(写真はキューバの作曲家
でサックスの奏者、ホセ・ミシェル・カレヨ氏)

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