リーン、リーン、チンチロリン、ズイーチョン、ガチャ、ガチャ、ガチャ。
盛んに鳴く虫の音の中に埋もれるように天文台のドームがあった。1984年9月のある日、芸西天文台にはNHK,東京朝日の報道関係と、一般の市民が数名集まっていた。60cm反射望遠鏡は、正確にハレー彗星の光跡を追って天心に向けられていた。

その頃、日本では、まだCCDによる観測が普及していなかった。芸西ではコダック社が開発した天体用の特殊なガラス乾板(103a-oや103a-e)などの低照度に強く、かつ相反不軌に優れた感材を使用し、周期彗星の検出に成果を挙げていたのである。

NHKのカメラは観測中の数時間を、私に照準を当ててフイルムを回し続けであった。案内星を見つめてガイド撮影すること35分、やっと観測が終了したのである。虫の音は一段と高くなった。私には手ごたえがあった。早速現像して、まだ水の滴る乾板を顕微鏡で見つめた。マクロの世界をミクロで見つめる。そして1ミクロンの精度で測定をおこなう。

あった!!そこには20等級のハレー彗星が、自己の存在を逞しくアピールするように沢山の微光星の中に埋もれて輝いていたのである。発見は洲本市の中野主一氏によってスミソニアンに報じられた。発見の狼煙は南から挙がった。東京中心の観測劇のシナリオは音を立てて崩れた。観測会に参加していた、高松の詩人(女性)は即興して詠んだ。 

 会い得たる
    愛(いと)しき星よ  
           虫すだ く

世紀のハレー彗星は、かくて虫の音と共に日本の空に登場したのである。

(写真は、観測中の筆者と、マースデン博士から記念して贈られたハレー彗星の楯)
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