古くからの私の星の友人に池幸一君と言う人がいた。
 彼は、戦後の本田さんの大活躍に刺激されたコメットハンターでもあった。新発見こそなかったが、1965年10月の「イケヤ−セキ彗星」が、近日点を通過した時、危険なことを承知しながら、太陽にくっつきながら公転する彗星の姿を終始見張った。乗鞍岳のコロナ観測所では、見事な写真を撮影したが、眼視で見張った人は世界になかった。
 そして須崎市のバンダの森で、太陽面をくぐった彗星が、朝焼けの中に輝く姿を、最初に写真に捉えて大ヒットした。「イケヤ−セキ彗星」が、摂氏100万度の太陽コロナの中で健在であったという驚くべきニュースを、世界に発信した。

 しかし彼には異様なまでの猟奇な一面もあった。天文家としてはめずらしいUFOの狂信者でもあった。あるときは絶滅したといわれる「日本かわうそ」の生存を信じて須崎市の新庄川をさかのぼり1週間テントを張って見張った。そして発見?した。捕まえようとして慌てて川に飛び込んだが、泳ぐのは相手が上、忽ちにして見失ったという。キャラクターの「しんじょうくん」で有名な川である。「彗星にしてもカワウソにしても、わっしは運が悪いのう」と言って、大笑いしていた。
 池氏は、このほか当時流行した8ミリカメラの名手でもあった。先輩の本田実氏の指導を受けていた。いずれ彗星を発見したら活動カメラに収めたい、との意欲を示していたが、さすがこの方は実現しなかった。

 ある晩遅く芸西村の天文台で観測していたら、突然ノックする音がした。たしかに
「イケです」と言った。慌ててドアを開けたが、空耳だったのかそこには誰もいなかった。彼は数年前に亡くなっているはずだった。名残なのか、遠くに彼の住んでいた町の灯が、夜風にかすかに明滅していた。

1965年10月21日、ハワイのマウナロアの山上で太陽に突入していく「イケヤ-関彗星」
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