私は昔からショパンの音楽が好きだ。「ピアノの詩人」と言われるほどに彼の発想は素晴らしい。ピアノの鍵盤を縦横無尽に使った音楽は、人の心を無限の美しい境地へと導く。そして新たな人生観を与える。私が彼の「円舞曲OP34-2」に出会ったのはまだ若い20歳のころだった。イ短調の哀愁に満ちた旋律は、私の心を虜にした。演奏は先輩が弾くクラシックギターであった。

その頃私は天文の世界で大きな苦境に立っていた。彗星の捜索である。朝に夕に熱心に観測しても容易に成果が挙がらない。生活とのジレンマもあった。哀愁の籠った主題の旋律は、その頃の私の心にピッタリであった。曲は暗い主題からやがて転調してやや明るいB部分に入る。ほっとした安堵が流れるが、やがて再び哀愁の主題が甦る。

私の苦悩に満ちた当時の人生を、そのまま表現したと思われるショパンのワルツはスペインの大家、ターレガによってギターに編曲された(ホ短調)。決してやさしい曲ではないが、私はことあるたびに演奏して心を癒している。ピアノでないと表現が難しいと言われるショパンが、ギターの世界で甦るところに意義がある。

1970年代の、芸西にまだ天文学習館が出来ていない時代に、私は山の小屋で弾いた。頭上には幽遠な星があった。私の弾くギターの調べは、遠く下界の民家にも、そして星空にも伝わっていった。その音に彗星発見の夢を託した。
 「ショパン作曲、円舞曲作品34-2。」これが私の人生のすべてであった。星とギターに徹した若き良い時代であった。

(楽譜はターレガ名曲集の中のショパンのワルツ。楽器は河野・桜井の名器)
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