今から半世紀も昔の、軌道計算に熱中していた若き頃、盛んに使用していたカシオの電卓が出てきました。ああ、このキーを、幾千回、幾万回押したことか。最も電卓を使用して、真数計算を始める前には、ガウスの6ケタの対数表を駆使して軌道計算に従事しました。
 その時代は主に新しく発見される小惑星の円軌道計算でしたが、めくるページがぼろぼろになって、何冊かの対数表の本を交換しました。家では好きだったクラシックギターを教えながら、計算に熱中しました。考え方によっては、何者にも拘束されない自由な良い時代でした。軌道計算の結果は遠くアメリカのシンシナチ天文台に報告されました。

 こうして軌道計算した小惑星の数は220個。これは後日観測者として、芸西の天文台で発見した小惑星223個と、数の上では、不思議と一致していました。その後小惑星や彗星の一般的軌道も計算しましたが、ガウスの4次方程式の解や、ハンセンの連鎖分数の解法なんか、未知の世界のことを学びました。要するに、逐次近似値法で真値に収斂さしていくという方法が、軌道計算の骨子になっていました。

 今では彗星や小惑星は、電子電算機を使って、早いスピードで計算されます。きわめてスピーディですが、途中の天体軌道論の組み立てはわかりません。これは結果を知るだけで、本当の数学ではありません。軌道計算の為の天体力学の要点を理解しながら、机上で長時間かかって計算するのが、本当の軌道計算の醍醐味なのです。

 その結果として、1961年に初めて発見した「関彗星」の軌道計算が出来たのは、私の天文研究の集大成でした。関彗星は、地球に大接近した後、太陽を回って900年後にまた帰還することを約束しながら、今は太陽系の彼方に去って行っているのです。「さよなら、バイバイ、アデュー地球よ、また会う日まで」と別れを惜しみながら、遠い未来にまた帰って来ることを約束しているのです。
 ここで天体力学的に注意しなくてはならないのは、太陽系の中を運行中に、もし木星や土星に接近して、その重力的な影響を受けると、周期が大幅に変わるかもしれません。この影響を、むずかしい言葉ですが、摂動(パーターベーション)といいます。これは天体の軌道計算上の重大な問題です。微分方程式、積分方程式のいかめしい数式が、デンとして、待ち受けているのです。

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