いまから100年以上も昔のドイツの大数学者「ガウス」の開拓した天体の軌道計算法の公式は、当時流行した対数計算に基づいたものであった。
 新しい天体までの距離を求める数式は、いかめしい4次方程式が組まれていた。天体までの距離(天文単位)が求まったら、あとは何とか軌道要素は導出できる。しかし解が4個も存在する難解な数式で、無論正しい解は一つである。また近似を良くするための、彗星の動径の描く扇形と、3角形との面積比を計算する、ハンセンの連鎖分数は慣れない計算であったが、下から計算するこによって、うまく収斂した。

 こうして逐次近似値法を繰り返すこと数回で、結果は出た。全体で20時間を超す計算量であった。おかげで高等数学の勉強になった。しかし、まだ難解な微分方程式、積分方程式は出てこない。むつかしい計算であるが、今のパソコンがやるような速いが無味乾燥な計算と違って、理論をきっちりと理解しながらのゆっくりした計算は楽しい。

 そして世界中の誰もが知らないことを日本の私が独りやっているのだ、との優越感が疲れた私の心
を慰める。しかし、その間、彗星はどんどんと地球に接近してくる。(まさか衝突するものでもあるまい)との安心感はある。そのことは私の計算しているキーボードをいじくる猫もチャンと知っていると思った。「セキ彗星」の軌道計算は、白いぺルシャ猫とじゃれながら完成したのである。

 こうして、関彗星「C/1961 T1」は、私の計算では900年後にまた帰還することを約して、宇宙の彼方に消えて行ったのである。参考までに、アメリカの、カニンガム氏の軌道計算では、その周期は770年であった。

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