私が20歳代の大半を過ごした部屋です。夏は繁みの方から盛んに蝉の鳴く音が聞こえてきました。冬は木枯らしの音を聞きながら机に向かって軌道計算を行いました。多い時には、一日に10時間も計算に没頭しました。関彗星(C/1961 T1)の周期が、約800年であることを知ったのもこの部屋です。机上には対数表や三角関数表、バフシンゲルの天文表なんかが置かれています。

1946年の南海大地震に遭遇したのもこの部屋でした。家は烈震に40秒間揺れ、空は光り、庭の木立からは多くの鳥たちが悲鳴を上げて飛び立ちました。「ギイギイ」という日本家屋の梁のきしむ物凄い音は、今でも耳の底に残っています。

1965年9月の「池谷・関彗星」を発見した夜、寝ていたのもこの部屋です。この二階の北側の窓から星空の様子を伺い、おっとり刀で飛び出して行ったのです。滑稽なやら、真剣なやら、多くのロマンに満ちた思い出のこの部屋は、今も昔のまま残っています。そして関家に在って百年間、時を刻み続けてきたボンボン時計(柱時計)も、今も健在です。

(写真は1957年頃の書斎部屋)

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