私の通っていた第四小学校は明治以来の100年の歴史を誇っていた。しかも校区に坂本龍馬の生まれた家があった関係で、特に龍馬との繋がりが深かった。講堂には大きな龍馬の肖像画が掲げられて、代々の校長の話の中に度々龍馬が登場した。私たちの時代は上田松実校長であった。龍馬の生家は空き家になっていて、私たちは良く中で”ほたえた”。

 学校の古い木造の講堂のそばに、大きな銀杏の木がある。今も健在である。木の下ではよく拳玉や縄跳びをして遊んだが、家に帰ると、遊びは一転した。”愛ちゃん”という6年生の餓鬼大将が居て、上町から学校に通う子供たちを集めて思い切り遊んだ。中でも″追い逃げ”と称して盗賊の真似ごとをやった。”鬼さん”が昂じたものである。狭い道路を走って、空き地や倉庫に隠れたり、電柱に登って屋根に上がり、鼠小僧の様に屋根を次々に飛んで逃げた。そうした遊びが高じて愛ちゃんは警察に補導されたこともあった。

 しかし愛ちゃんの理想は飛行士になることであった。高等小学校を卒業すると、乙種飛行予科練習生として、憧れの予科練に入隊した。太平洋戦争の末期、日本では一人でも多くの航空兵を必要とした。そんな時、関大佐の特演があった。特攻機第一号である。九州の基地から関大佐を中心に三機の特攻機が飛び立った。その様子は、当時のニュース映画でも放映された。愛国心に燃えていた愛ちゃんの胸は高鳴った。ここから高木愛吉の、数奇な運命が始まるのである。

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