黒潮の流れに乗って、たどり着いた珍しい漂流物とは一体なんなのか?それは小さなケースに入ったダイヤモンドの指輪でした。渚を歩いていた地元の漁夫が発見しました。このダイヤの指輪の発見が、漂流物の展示会を始めるきっかけとなったのですが、これには何かロマンがありそうです。ボロボロになったケースは、この漂流物が如何に長く海をただよっていたかを伺わせます。恐らく海に落ちて数十年の歳月が経ったものと想像されます。しかし、昔のままの輝きを保っていると思われるダイヤモンドの指輪は、何かを物語っているように思われます。そこには私たちの知らない深いロマンがありそうです。

 地元で農業を営む菊池武雄の下に、召集令状が来たのは太平洋戦争の激しくなった昭和19年の3月のことでした。兵士として、ろくに訓練も受けていない武雄は、輸送船に乗って南方の戦線に送られました。一か月前に妻、美恵子と結婚したばかりでした。武雄は妻に贈った結婚指輪を持って、戦場に向ったのです。輸送船の中は兵士や馬でいっぱいでした。しかし舟が南シナ海を南下中の夜中、敵の潜水艦に発見されて魚雷攻撃を受けたのです。轟音と共に舟が傾いたとき、武雄は妻の名を呼び、しっかりと指輪の入ったケースを握りしめました。

もろい輸送船は二つに割れ、アッと言う間に夜の海中に沈みました。しかし妻と思って大事にしていた指輪は、奇跡的に浮かび上がり、武雄の手を離れて、暗い海の中を漂う運命となったのです。

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