「奇妙なコメットシーカー」を語るにあたって、”天文冒険家”たる、池幸一氏を外す訳には参りますまい。"幸一ちゃん”はツアイス製のコメットシーカーに異常なまでに興味を示し、東京天文台に度々その技術資料の提供を求めましたが、どこの”馬の骨”とも知れぬアマチュアに天文台が取り合うはずがありません。幸一ちゃんは、しびれを切らせて遂に望遠鏡の写真を頼りに自作する決心を固めたのです。

 しかし自作すると言っても、ツアイス製と全く同じものでは意味がない、という事で、独自に考案したのが、ゴンドラ式のコメットシーカーでした。遊園地などでよく見かける、子供たちが乗って、ぐるぐる回るもので、そのボックスの中に口径12.5cmの屈折式のコメットシーカーと共に入って、手動でゴンドラを回転させながらグルーッと360°観測するというものです。そして角度を天頂まで変えていきます。

 時あたかも春。朝の東天にアンドロメダの大銀河が見え出したころ「幸一ちゃん」はゴンドラに乗って、その付近を捜索していました。しかし夜明けまでの時間がないことを知って急に早く回転させたために、彼は酔ってしまったのです。乗り物酔いの症状を起こし、遂に観測の中断を余儀なくされたのです。そんな時、皮肉にも明るい新彗星が現れて、多くの日本人が発見するところとなりました。

 彗星の名は「多胡・本田・山本彗星」です。この朝、10人ほどの独立発見者が名乗りを挙げましたが、折角、奇想天外なコメットシーカーを考案しながら、見事失敗の巻となったのです。やはり便利な器械よりも、観測者の熱心さが大切なことを教えられた事件でした。

(写真は土佐市の自宅屋上で、ゴンドラ式の観測ボックスに乗り込む池幸一氏)
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